QOL評価としてのEQ-5Dの概要と日本語版の開発🫁
呼吸器外科手術でLancet誌に掲載された研究
Lancet誌に掲載された論文では、早期非小細胞肺がんに対する胸腔鏡下手術(VATS)と前外側開胸術の術後疼痛と生活の質を比較したランダム化比較試験において、QOLの指標として
- EQ-5D-5L(EuroQol 5 Dimensions-5 Levels)
- 欧州がん研究治療機構(EORTC)30項目の生活の質質問票(QLQ-C30)
そもそも、EQ-5Dとはなにか少しまとめ直します。
近年、医療技術の経済評価への社会的要請が高まる中、さまざまな健康状態のQOLを定量的に評価する手法が必要とされています。EQ-5D(イー・キュー・ファイブ・ディー)は、QOLを評価するための質問票であり、医療技術の経済評価において近年利用が進んでいる質調整生存年(Quality-Adjusted Life Year; QALYクオリー)の算出に用いるためのQOL値を提供できることが最大の特徴です。(私はそちらは計算したことがないのですが)
EQ-5Dの構造と利用
医療技術の経済評価においては、比較対照の医療技術に対して1単位の増分効果を生み出すのにかかる増分費用を算出するのが標準的な方法です。これを増分費用効果比(Incremental Cost-Effectiveness Ratio; ICER)といいます。QOLと生存年とを統合した質調整生存年を用いることが一般的になっています。質調整生存年の算出にあたっては、QOLを死亡=0、完全な健康=1とする比例尺度で測定する必要があります。EQ-5Dの5項目法では、患者や一般の人々に自分自身の健康状態を回答してもらうことにより、換算表を用いてQOL値が得られる仕組みになっています。
EQ-5D-5Lの特徴
EQ-5Dは、1987年に設立された研究者グループであるEuroQol(ユーロコル)Groupにより開発されました。当初開発された質問票はEQ-5Dと呼ばれていましたが、のちに新しいバージョンであるEQ-5D-5Lが開発されたことにより、現在では従来のバージョンをEQ-5D-3Lと呼ぶようになりました。 EQ-5D-5Lは以下の5項目の健康状態を評価します:
- 移動の程度
- 身の回りの管理
- ふだんの活動
- 痛み/不快感
- 不安/ふさぎ込み
日本語版EQ-5D-5Lの開発
日本国内においても、薬剤を対象とした医療経済評価において使用されるQOL値は、EQ-5Dで算出されたものが最も多く使用されています。福田らが作成した「医療経済評価研究における分析手法に関するガイドライン」でも、使用する尺度について「国内データに基づき開発されたスコアリングアルゴリズムの存在するインデックス型尺度の使用を推奨する」とあり、EQ-5Dはこの条件に合致しています。
EQ-5D-3LのQOL値換算表は、5項目法で表現される243の健康状態のそれぞれについてQOL値を提供するもので、一般の人々に対して5項目法で表現される仮想の健康状態について時間得失法(Time Trade-Off;TTO)を用いた面接調査を実施したものです。
EQ-5D-5Lの開発過程における表現の変更
EQ-5D-5Lの開発に当たっては、整合性を高めたり、理解しやすくする目的で若干の表現の変更が行われました。例えば、移動の程度の項目における「ベッド(床)に寝たきり」(confined to bed)という用語は、「歩き回ることができない」(I am unable to walk about)に変更されました。また、英語版の変更はなかったが、日本語版としてはEuroQol Groupとの協議により、訳語が変更された箇所もあります。EQ-5D-3Lでは「洗面」と訳されていた身の回りの管理の“wash myself”は、EQ-5D-5Lにおいて「身体を洗う」となりました。また、程度を表す形容詞や副詞は、それぞれ、「少し」(slight,2段階目)、「中程度」(moderate,3段階目)、「かなり」(severe,4段階目)、「できない」(unable)あるいは「極度」(extreme,5段階目)としましたが、EQ-5D-3Lでは、moderateは「いくらか」あるいは「中程度」、extremeは「ひどく」と訳されていました。
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