呼吸器外科

肺癌手術と術後QOL(生活の質)に関するまとめと自身の研究について

肺癌手術と術後QOL(生活の質)に関して🫁

本日学んだ部分をすこしまとめなおしてみました

そもそも…

肺癌はそのステージによって治療法が異なりますが、早期の肺癌に対する治療の第一選択は手術です。しかし、多くの患者は無症状のまま発見されることが多く、手術の必要性を実感できないことがあります。

痛ければ「手術してくれ!」となりますが、痛くも痒くもないのです。そのため、呼吸器外科医は術前に患者との信頼関係を築くことが非常に重要であると思っています。術前の信頼関係も術後の疼痛やQOL(生活の質)にも大きく影響するのではないのでしょうか。

低侵襲手術とQOLの向上

胸腔鏡などの低侵襲手術によって疼痛は改善されることが知られていますが(Stamatis et al., 2019)、QOLの向上に関する知見はまだ限られています。術後のQOLには、併存疾患、癌のステージ、術後の有害事象、胸腔チューブの抜去時期などが影響すると報告されています(Ichimura et al., 2021)。

しかしそもそものQOLの指標をなにで行うかについてすら議論の余地があるところです。

Well-being(主観的幸福度)について

近年、QOLに関する研究が増えてきていますが、QOLの評価には限界があり、より個別性を反映できるアウトカムとしてwell-being(主観的幸福度)も注目されています。人生の満足度を評価する尺度としてDienerの人生満足尺度(SWLS: Satisfaction With Life Scale)などが広く用いられています。

私たち外科医が侵襲の少ない手術を提供し、予後の延長に尽力しているのは、患者のwell-beingを向上させるためであることは間違いありません。しかし、well-beingを直接アウトカムとしている臨床研究はとても少ないです。

研究の目的と成果

私の研究では、肺癌患者のQOLをアウトカムとして評価し、術前の心理的要素(特に不安)が術後QOLに与える影響を調査しました。2020年から始めたこの研究では、術前の強い不安が術後のQOL低下に関連していることを明らかにしました(Takamiya et al., Frontiers in Psychology, 2023)。この発見から、患者の不安を軽減することがQOLの向上に重要であると示唆されました。

さらに、不安を軽減する介入手法としてマインドフルネスを取り入れたプログラムをワークショップとして実施しました。(THE WELL-BEING WEEK 2023, 2023年3月,東京, Web開催.)また、再発時にADL(活動日常生活)が低下した肺癌患者に対して旅行による介入を行い、SWLSが高値であったこともプライマリケア学会のシンポジウムで共有することができました。(『医療×旅行』で患者の生き方を多業種連携で実現する, 第14回日本・プライマリケア連合学会学術大会, 2023年5月, 名古屋, 現地開催.)

今後の展望

今後の研究ではより詳細な解析を行うことで、肺癌患者のQOLやwell-beingを向上させるための具体的な介入方法を確立していきたいと考えています。特に、術前の心理的サポートの重要性を強調し、患者一人ひとりの主観的な幸福度を高めるための方法を探求していきたいです。

患者のwell-beingを中心に据えた医療を提供することで、術後の生活の質を向上させ、より良い治療結果を目指していきたいと思います。

欧州胸部外科学会(ESTS)

海外ですと、欧州胸部外科学会(ESTS)ではCecilia Pompiliら(@pompili_cecilia)がESTS 生活の質と患者安全ワーキンググループ主導で会員にアンケート調査をしています。

データ収集の時点、質問票の種類と実施方法、脱落者、手術関連症状、対象集団の定義など、QoL 評価のさまざまな側面に関する 13 の質問を1,250 人の ESTS メンバーに電子メールで送信したものです。

150 名が調査に回答し全体の 54.4% の外科医は、日常診療で QoL データを収集したことがないと回答しました。SF-36 と EORTC C30 はどちらも最も一般的に使用されている質問票で、胸部外科の患者に最も適していると考えられています。

LC-13 モジュールを追加で使用した外科医はわずか 20% でした。ほとんどの場合 (45.5%)、質問票は医師主導の対面インタビューで回答されます。回答者のわずか 21.2% が手術前にデータを収集し、回答者の 39.3% が肺がん患者からのみ QoL データを収集し、16% が食道疾患の患者も追加で収集しています。術後合併症、併存疾患、外科的および腫瘍学的ベースライン データ、創傷疼痛、治癒障害、腕の可動性、酸素依存、職場復帰、術後投薬は今後の質問票に含めた方がよいと考えられてたようです。

まだまだ整理されていない部分も大きいので、日本の呼吸器外科医がQOL研究においてどのような方向へ進んでいくのがベストなのか再度考え直してみたいと思っています。

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